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内容は、Q計画、N計画を続行するという、〝自主開発路線″を維持したものだった。
さらにおなじ十月一日、宇宙開発推進本部は改組され、「宇宙開発事業団(NASDA)」として、新しい一歩を踏み出した。
初代理事長は、旧国鉄の技師長として東海道新幹線という新しいシステムをまとめ上げたことで知られる島秀雄だった。
またこのときQロケットの開発続行も、宇宙開発推進本部から、宇宙開発事業団に引き継がれた。
いや、引き継がれたというより、自主路線から技術導入へ移行する決断をゆだねられたのである。
そして、島秀雄は決定した。
の先人が切り開いた道を登るべきである」誰も登ったことのない道とは、国体ロケットによる静止衛星打ち上げのことだ。
島秀雄の考えは、静止衛星を上げることが目的ならば、まずは先人たちに習い、液体ロケットでゆくべきだというものだった。
七〇年の十月二十一日。
宇宙開発委員会は、Q計画を中止し、新N計画に移行することを決定した。
新N計画は、高度一〇〇〇キロメートルの軌道へ八百キログラムの衛星を、高度三六〇〇〇キロメートルの静止軌道へ百三十キログラムの衛星を上げることができる、NIIロケットを開発することである。
そのN-Iの第一段ロケットは、マクダネル・ダグラス社からソー・デルタ・ロケットの第一段である液体ロケットを、そっくり輸入して採用することになった。
ただし、ずっと輸入品に依存するのではなく、その後はライセンス生産に移行するというものだった。
第二段は、SSLS型で開発がすすめられていたQロケットの第三段、つまり日本が自主技術でやろうとしていた〝L″の液体ロケットを叩き台にし、アメリカから技術援助を受けて実用化する。
そして第三段ロケット、すなわち衛星を搭載する部分の固体ロケットは、ソー・デルタとのコンビネーションでは実績のあるサイオコール社の製品を輸入。
衛星を収納するフェアリングもマクダネル・ダグラス社から輸入。
さらに固体ロケット・ブースターもサイオコール社から輸入し、いずれはライセンス生産とすることになったのだった。
第二段のほんの一部をのぞけば、すべて輸入品である。
しかしこれが現実だった。
ここからスタートしていたのだ。
そして少しずつ技術を吸収しながら、NIHIH-Iとすすむなかで自主開発の部分を拡大していった。
もちろんこれらのロケットには、日米交換公文に記されているさまざまな〝制約″がつきまとった。
導入した技術の利用は平和目的に限る、無断で第三国に技術輸出しない、インテルサットと競合しない、等々である。
再突入技術、つまり軌道に打ち上げた衛星などをふたたび地上にもどす技術も、ICBM開発につながるとして、規制された。
また、日本が技術を身につけてゆくにつれて交換公文は改訂され、アメリカに無断で他国の衛星を打ち上げてはならないことや、ソフトウェア提供の規制など、さまざまな条件がくわえられた。
そのため、ロケットによる打ち上げビジネスはほとんどできず、技術援助にも完成品という名の〝ブラック・ボックス″の割合がふえたのだった。
アメリカが日本の地に植えた「拡張的協力案」は、こうしてさまざまな形の花を咲かせたのである。
三十数年前の決断が、はたして良かったのか悪かったのかはわからない。
しかし、技術力のなかった日本にとっては、それが選択肢の一つだった。
そして、「アメリカに無断で他国の衛星を打ち上げる」こともできなくなった。
ロケットの技術導入とは、それほど多くの制約を受けるのである。
そうした制約からようやく日本が抜け出したのは、全段自主技術によるHIHロケットを完成させたときだった。
日本の宇宙産業は、これでやっと世界という市場の一角に店を出したのである。
しかし、アメリカの制約から抜け出したときにまっていたのは、衆議院決議という日本国内の制約だった。
いまさらいうまでもないことだが、兵器としての弾道ミサイルとは、いつでも打ち上げられるものでなければ役に立たない。
もう一ついえば、どこでも打ち上げられること、という条件がつく。
そしてこれらの条件を満たすためには、少なくとも保管できるものが必要になる。
保管ができないようでは、兵器として配備することもむずかしいし、即応態勢などは論外である。
ロケットとミサイルのちがいは、こうした部分にあるのだが、実はあまり知られていない。
そのために、上空へ向けて打ち上げられるものは十把一絡げにミサイルと見なされ、宇宙産業すなわち兵器産業になってしまう。
そこで、人工衛星の打ち上げシーケンスについて記しておきたい。
これを理解しておけば、ロケットとミサイルのちがい、つまり軍事用と民生用のちがいが明確になるはずである。
われわれは、航空機の飛行についてはよく知っている。
離陸の瞬間から上空での巡航飛行、そして着陸態勢に入って滑走路にランディングするまでの様子を、さまざまな映像をとおして見ているからだ。
また搭乗経験があれば、各飛行形態の状況を実感とともに想像できる。
しかし宇宙輸送システムとしてのロケットの飛行形態については、ほとんど知られていない。
といってもよいが、そのあとの飛行はもう〝別世界″である。
映像というヴィジュアルな情報がないからだろう。
スペースシャトルにしても、リフト・オフの状況と軌道上での内部や船外活動、そして地上に帰還して着陸するときの状況などはテレビで見られるが、それ以外はまったくわからない。
こうした、途中の状況を見られないことが、われわれにとって宇宙はまだまだ遠い世界という印象をもたらしているのではないかと思う。
見えるのは地上付近での様子と、軌道上での活動のシーンだけである。
これではいつまでたっても、宇宙は〝別世界″だ。
いずれは、地上から軌道上までの状況を一般の人々にもヴィジュアルに伝えることのできる機器が開発され、宇宙との距離感を縮めてゆくことになるのだろう。
しかし映像がないからといって、すべてが別世界となるわけではない。
人工衛星の打ち上げではロケットの飛行経過などが秒単位で決められており、それにしたがって計画はすすめられてゆく。
だから極端にいえば、リフト・オフのときから腕時計を見ていれば、ロケットがいまどんな状態にあるのかは、おおよそ把握できるのである。
そこで、HIHロケット試験機三号機による静止気象衛星GMS-5、すなわち「ひまわり三号機は、静止気象衛星GMS-5のほかに、多目的軌道上プラットホーム・SFUできる無人宇宙実験システムである。
一般には「フリーフライヤー」と呼ばれ、日本の宇宙飛行士・若田光一さんがスペースシャトルによって回収することに成功して話題にもなった。
が標準で、一般にはこれが搭載される。
ほかにも直径が五メートルの5S型や、上部が直径五メートル、下部が直径四メートルの5/4D型がある。
5S型は大型衛星用、5/4D型は複数衛星同時打ち上げ用である。
静止気象衛星GMS-5とフリーフライヤーを同時に打ち上げる三号機には、5/4D型が取り付けられた。
先だけふくらんだHIHが発射台に立つ姿は、ブースターがなかったらツタシのようで、どことなく愛婦があった。
いうまでもないことだが、打ち上げのスケジュールというのはプロジェクトが決定したときがスタートである。
そして打ち上げの四カ月ほどまえから、ロケットを制作している三菱重工や川崎重工の工場から、船で種子島の射場に運びこまれ、点検と組み立て作業が開始される。

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